レニー滝川のシネフィル日記

映画大好き人間による備忘録のようなもの。

『ゼロ・グラビティ』一人の女性が極限状態の中で強烈な進化を果たす物語。

どうもレニーです。
今回紹介するのは、驚異的な映像で宇宙空間の美しさと恐怖を描いた『ゼロ・グラビティ』。

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(C)2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

映画館で観た時はその革新的な映像表現に、さも自分が宇宙にいるかのような錯覚に陥った。宇宙を描いたSF作品の中では、間違いなく映画史に残る傑作だと思う。

映画界からの評価も高く、クエンティン・タランティーノは本作を2013年のベスト10映画に選出している。
そして2014年のアカデミー賞では、監督のアルフォンソ・キュアロンが本作で見事に監督賞を受賞した。

ゼロ・グラビティ』のあらすじとキャスト

言うまでもないが、本作は地球の上空約60万メートルの宇宙空間が舞台となる。温度は摂氏125度からマイナス100度の間で変動し、音を伝えるものは何もない。もちろん気圧もなく、酸素もない。
少しのミスがいとも容易く死に繋がる宇宙空間の中、メディカル・エンジニアであるライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)とベテラン宇宙飛行士であるマット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)は、通信システムの故障の原因を探るミッションにあたる。
順調に調査を進めていた彼らだったが、ロシアが破壊した人工衛星の破片(スペース・デブリ)が猛烈なスピードで彼らのいる方向へ迫っていることを知らされる。急いでシャトルに避難しようとするライアンとマットであったが、デブリが彼らに襲い掛かり2人は宇宙空間に放り出され離れ離れになってしまう・・・。

ライアン・ストーン博士を演じたのは、『しあわせの隠れ場所』(2009年)で主演女優賞を受賞したサンドラ・ブロック

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(C)2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

SF映画で女性が主人公というのも珍しい。特に本作のような危機的状況をサバイブする映画であるなら、男優の方が色々な動きや見せ方ができるように思う。しかし、『ゼロ・グラビティ』におけるサンドラ・ブロックの演技はとにかく素晴らしかった。相当な体作りをして挑んだというのも一目で分かるし、絶望的な状況を前にした感情表現も見事だった。

ベテラン宇宙飛行士でありライアンをサポートするマット・コワルスキーを演じたのは、ハリウッドの色男代表ジョージ・クルーニー

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(C)2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

危機的状況の中でも決してテンパることなく、ジョークを飛ばしながらライアンをサポートする姿がシンプルに格好良かった。ほぼすべてのシーンで宇宙服を着ているので本作で顔がハッキリと映るシーンは限られているが、それだけにジョージ・クルーニーの声の渋さが際立っていた。『ゼロ・グラビティ』では「通信」が重要なツールとして登場するので、ここは意外と重要な要素である。

はっきりと登場する人物は、なんとこの2人のみ。厳密にいえば他にも数人登場人物はいるが、本当に一瞬なのでほぼ2人芝居というスタイルである。劇中での2人の動きはミリ単位で事前に決められており、寸分の狂いも許されない難しい演技だったとのこと。
ちなみにサンドラ・ブロックジョージ・クルーニーは、プライベートでも20年以上の友達。これまでに共演した映画は少ないが、互いに尊敬をし合っているからこそ過酷ともいえる本作で見事なケミストリーを起こしている。

そして本作の監督は『天国の口、終わりの楽園』(2001年)や『トゥモロー・ワールド』(2006年)のアルフォンソ・キュアロン。『トゥモロー・ワールド』で魅せた革新的な長回しは有名だが、本作の冒頭13分のロングテイクも劇場で観た時には度肝を抜かれた。

 

これまでになかった映像体験

ゼロ・グラビティ』の魅力は、まずその圧倒的な映像体験にある。冒頭13分のカットなしのロングテイクシーンから、これまでには体験したことのない映像世界を味わうことになる。この時点でまるで自分も宇宙にいるかのような錯覚に陥り、青い地球の美しさに息を飲んだり、その後訪れる危機的な状況にリアルな恐怖を感じたりする。

監督のアルフォンソ・キュアロンは本作の製作が決まってから、この映画の実現に必要な映像技術が開発されるまで4年も待ったという。その甲斐もあり、本作の宇宙表現は実際に宇宙へ3回飛んだことのあるNASAの宇宙飛行士からも「本物そっくりだ」と絶賛の声が挙がっている。「消火器で軌道を変えて飛び回るのは無理」という声や、「ISS内で火災が発生するのはあり得ない」など宇宙関係者からは一部間違いを指摘する声もあるが物語上の脚色として仕方がない部分もあるように思う。
宇宙空間に対する知識を全く持ち合わせてない僕でも「これは、、?」という場面はあるにはあったが、サンドラ・ブロックの鬼気迫る演技と圧倒的な映像世界による没入感はピカイチだった。

 

一人の女性が「進化」を遂げる物語(ネタバレあり)

ゼロ・グラビティ』の魅力は映像だけではない。むしろ映像は表向きの魅力で、本作の根幹には主人公であるストーン博士の成長ストーリーが紡がれている。
ストーン博士には4歳の娘を不慮の事故で亡くした過去がある。それは本作で大きく触れられる部分ではないが、それによって彼女が心に傷を負っていることが分かる。辛い過去を持つ主人公が日常から離れた場所で危機に見舞われ、やがてそれを乗り越えていくという話は普遍的でありながらも心を揺さぶる物語である。本作が好きな人は、ニール・マーシャル監督の傑作ホラー『ディセント』(2005年)も好きだと思う。

宇宙空間で極限の危機を味わったストーン博士だが、生への強い意志とともに地球への奇跡的な生還を果たす。水の中を泳ぎ陸へと降り立つ彼女の姿は、人類そのものの「進化」の過程の姿とすら重なる。強烈な体験の中で進化を果たし、重力を取り戻した彼女は新たな人生を手に入れ前へと進むことができるに違いない。